1.

論文

論文
下田, 雄次
出版情報: 弘前大学大学院地域社会研究科年報.  12  pp.101-126,  2016-03-18.  弘前大学大学院地域社会研究科
URL: http://hdl.handle.net/10129/5912
概要:  本研究は青森県津軽地方に伝承されている祭囃子を題材としながら、民俗芸能が現代的な状況のなかで「余興」として実践される場に注目し、現在を生きる人々の日常に息づく民俗芸能の姿を把握することを目的とする。青森県津軽地方においては「余興」と称して 祭囃子や盆踊りなどを本来の行事とは別に行うという実践の形態が見られる。この場合における「余興」は民俗芸能が従来その内部に有していた遊興的な部分としての余興とは異なる意味を含んでいる。 高度経済成長を遂げた我が国では、かつての民俗社会が変容・消失した。程度の差こそあれ、民俗芸能は地域社会のなかで自明の存在ではなくなり、自らの存在理由の獲得において、文化財や観光資源であるという点に立脚しながら当事者たちが再解釈していくという状況が発生した。文化財であることを標榜するには「保存」すなわち、固定的な伝承観に基づいた芸能実践が求められてきた。文化財制度は芸能を地域的な文脈から切り離す傾向を発生させた。 当該地域においても日常の芸能実践の前提にこのような事情があるが、一方でそのような前提のあり方から逸脱し、自分たちの楽しみとしての芸能のあり方を追求する芸能実践がある。当事者たちはこれを「余興」と呼ぶ。このような現代的状況を前提に「余興」として実践される芸能は、これまで信仰や文化史を主流とした民俗芸能研究において問題としては捉えられてこなかった。論者は「余興」を対象にすることで「いま、ここ」に生きる民俗芸能の姿を当事者たちの生活世界とともに把握する有効な手がかりになると考えている。これによって人々の日常における生活世界のなかで、変化しながら多面的に展開する民俗芸能の姿が垣間見えるのではないかとも考えているのである。 「余興」が行われる場は、いわゆる文化財としての「正しさ」を追求しようとする意識が希薄である。さらには、民俗芸能の要件とされてきた「時」や「場」などといった制約からも解放されている。 「余興」として実践される芸能は、現在に生きる地域の人々の生活世界のなかから立ち現れてくる事象であり、そこでは誰もがその行為に関わることが可能な空間が形成されている。それは、人々の集まりにおいて、その集団自体がその時々の事情に応じ臨時的に演者と観衆に分化し、そのつど立ち現れては解消されていくという関係性でもある。人々の関係性の側面から「余興」を見た場合、そこには大別して二通りのタイプが見られる。一つは、普段の生活における人間関係が「余興」の場に表出するものであり、もう一方は、「余興」の場において臨時的に関係性が形成される場合である。このような場において、芸能は「社交の技術」としても機能している。 祭り囃子の伝承者たちにとって「余興」もまた祭礼や民俗芸能大会、競演会やイベントへの出演に加えて、芸能実践の場の一つになっている。「余興」を民俗芸能の多面的な実践の一環として捉えていくことにより、人々がそれぞれの実践の場面において、各実践の目的に見合った欲求を場に応じて満たしている姿が見えてくる。また、民俗芸能が置かれている場として、文化財保護制度や観光産業といった枠組みにとらわれない部分、すなわち人々の生活世界における営為といったものが浮かび上がってくる。 「余興」の実践により、人々は諸々の制約から「解放」された場において、芸能を介した相互交流を通じて人間関係を発展させながら、芸能に興じる楽しさを優先させた実践のあり方を構築している。当事者たちはあえて「余興」という言葉を用いながら芸能を実践することにより、芸能を再び自分たちの生活世界に引き寄せているという一面が見えてくる。 続きを見る
2.

論文

論文
加藤, 博之 ; 松谷, 秀哉 ; 大沢, 弘
出版情報: 21世紀教育フォーラム.  6  pp.31-39,  2011-03-31.  弘前大学21世紀教育センター
URL: http://hdl.handle.net/10129/4776
概要: コミュニケーション能力は医師が有すべきプロフェッショナリズムを支える重要な要素である。今回、コミュニケーション教育の一環として、医学部医学科1年生が模擬患者と対話する実習を行なった。具体的には、まずコミュニケーションの基本を講義した後、学生 が模擬患者に対し「自分はこんな医師になりたい」をテーマに5分間話をした。自分の思いを上手に伝えるためには、話したい内容を要領よくまとめるだけではなく、挨拶や自己紹介、話す速さ、声の大きさ、言葉づかい、表情やしぐさなど、あらゆる要素を動員することが求められるが、初対面の人の前で、これらを上手に行なうことは意外に難しいことを、学生たちは実感していた。更に、実際の医療現場では、初診の患者は診察室で医師と相対したときに、同様の思いを抱いていることを想像できていた者もいた。人間を相手にする医師という仕事には、コミュニケーション能力の習得が欠かせないが、本実習がその良きスタートとなったことが示唆された。 続きを見る
3.

論文

論文
清水, 稔 ; 宮﨑, 充治
出版情報: 弘前大学教養教育開発実践ジャーナル.  5  pp.33-47,  2021-03-31.  弘前大学 教育推進機構 教養教育開発実践センター
URL: http://hdl.handle.net/10129/00007487
概要:  弘前大学の初年次教育の一つである「基礎ゼミ」では、学生の主体的・能動的な学修の能力を形成するための学生生活も含めたスタディスキルの修得を目的としている。筆者らは、その「主体的・能動的な学修能力」の育成にとって、人間関係の構築が重要な位置を 占めると考えた。取り分けコロナ禍の現在においてはそれが顕著であった。結果的に、本年度の基礎ゼミの活動はオンラインでの学習でありながら、学生達の豊かなコミュニケーションを構築し、同時に、主体的な学びや学生からの情報の発信が見られた。それらは、単なる知の習得ではなく、探求力・問題解決力・コミュニケーション力などを含んだ、予測困難な未来を生きる力としての「知の技法」のであったと言える。そこで、本実践を振り返ることで「知の技法」の生成とコミュニケーションがどのように関連し、また相互に機能したか解き明かそうとしたのが本稿である。具体的には、前期授業で使用した課題や提示資料、及び学生の発表資料や提出物、アンケートといった記録資料を分析の対象とし、教育学と哲学の視点から考察した。 続きを見る